埼玉県議会は23日に開会、来月14日を閉会日として現在おこなわれている。例年のことだが9月議会は短期間定例会となっている。
県提出議案は16議案あり、うち今議会で注目すべきはトマトの土耕栽培に関する実証実験施設「次世代技術実証・普及センター」の建設事業費6,238万円かと思う。補正予算全体は13億8千万円余りとなっている。
実は、この計画はイオングループが久喜市にある県農業技術研究試験場内で進めようとしているトマトの水耕栽培事業が、トマト農家の経営を圧迫することにつながるとの懸念から自民党県議団が付帯決議を可決し、予算執行がストップされていることへの対案的に示されている。
この水耕栽培研究事業は、国庫補助金10億円、イオン出資9億円で実施するものだが、高品質・低コストの野菜を作る農林水産省の指定事業のひとつである。国内10ヶ所のうち首都圏ではここだけとなるもので、県の単独事業ではないのだが、問題は民間の大手流通グループが主導権を担っているということであろう。
知人の青果業を営む方の話では、トマト農家の存在を無視し、経営圧迫になりかねない計画で、次世代とは名ばかり、大手企業の多様性事業を後押しするような予算だ!と憤りを口にする。
確かに、トマトは広く一般的に栽培されている食材だが、これを専門に事業をされている農家は300戸あり、9割は土耕栽培で成り立っている。県北で古くからトマト専業農業を営んでいる知人も土耕栽培に励み、近隣農家や学校で指導までされている。
水耕栽培が定着すれば、新たな設備投資が現業農家に求められることにもなる。表現を変えれば、トマト農家が束になっても対抗出来ない新手の栽培方法に県が着手するのだから一般的に言われる農業育成とに逆行すると思われてもやむを得ない。
私が現職の時の数年前にも、イオングループを相手とした米栽培への支援事業を埼玉県が後押しする状況があった。
羽生市などを含む北彩農協での話だったが、ご存知のように巨大イオンモールがある地区でのことだ。イオンが実験的に米を栽培し、自社生産自社販売という一貫性で、より安く消費者に提供するという計画に対し、その事業支援を北彩農協が手を貸すというおかしな計画だったと記憶している。
米価下落の長期化にあえぐ米農家にとって巨大ライバルの出現を意味する流れの中で設備投資を低く抑えたいイオンに、農協が所有する乾燥機などの設備を貸与するというのははたしてどうなんだろう?といった疑問がわくのは当然のことだった。現在、それがどういった状況にあるかは不明だが、県の思考性に首を傾げたものだ。
大手流通企業による生産部門への進出は、経営難にあえぐ農家をさらに苦しめることになりはしないか。その疑問を払拭するために共存共栄の方向性を探る今回の予算措置も、長い年月が過ぎるうちには勝ち組と負け組という結果を生むことにもなりかねず結局奇麗事で終わりかねない。
さて、計画にあたって農家の声を的確に把握し、反映しているのだろうか。農家も後継者不在、天候異変による生産不安定、NPPなどなど迫り来る内外の問題に心が休まることがない。