昨年は県勢初の優勝という結果に心が踊ったが、今年もまた全国高校選手権大会に魅せられた。
ところが、岡山の創志学園の西投手のガッツポーズを巡っての議論がかまびすかしい。高校野球とは? アマチュアリズムとは? 著名人の論評もかなり出ているが賛否両論、若干賛成派が多いように感じる。ガッツポーズは一瞬一瞬の心の叫びだとして大目に見てはどうかという。マスコミにも「今の時代的」な個人自由主義のおおらかさとして認める風潮があり、そうした論説を掲載する傾向にある。しかし、こうした事象が起こるたびに伝統慣習的なものから乖離していく状況でよいのだろうかと思う。私は行き過ぎたガッツポーズを注意して制した審判に賛同する一人だ。
西投手の場合は、大きな口を開いて吠えながら大相撲の琴奨菊が見せる後ろ反りを三振を取った打者に向かってガッツポーズをする。相手へのリスペクトが無いと審判が制したのは当然と思う。驚いたことに、その審判の制止により、調子を狂わせた西君は逆転負けを喫したという論評があったことだ。素直な感情表現を注意され、投球に微妙な狂いが生じたというのだが、こうした理由で個々のガッツポーズを認めていたら、間違いなく高校野球は変質するであろう。数日前、西武ライオンズの3、4番バッターが続けてやったことに驚いたが、内野ゴロで一塁にヘッドスライディングするのは高校野球の特徴であり、らしさである。しかし、そこで一塁手が取りこぼした結果セーフになった選手が吠えながら右手を何度も何度も突き出すガッツポーズ・・・回もせまって同点から逆転のチャンスに感情が爆発したのだろうが、目の前の相手のエラーに喜ぶ形となる。
人間教育の一つに感情の抑制という一面がある。これは人間資質として欠かせない忍耐や我慢というものに大きくかかわっている。オリンピックで金メダルを獲得した選手が表彰台で1、2回ジャンプし、こぶしを挙げる程度のポーズには感動を覚えるが、高校野球という分野で感情むき出しのガッツパフォーマンスを許したならば、今後どんな感情表現が為されるか想像がつかない。加えて演出味たっぷりともなれば純粋さが持ち味の高校野球は、それこそ100年の歴史をもって姿かたちを変えることにもなりかねない。金足農業の吉田投手が早実の齋藤投手以来の人気ぶりだが、捕手と試合中に交わしている刀を抜いて、収めるポーズが注意されている。これがピッチングのリズムだと称し、認められるのであればプレーとは無関係のパフォーマンスが横行することは自明の理であろう。監督世代も新世代へと徐々に移り変わる中、アスリート魂の在り方を冷静に指導できる監督像が望まれる。そうでないと、少年野球の世界までガッツパフォーマンスがあふれることにもなっていくだろう。
実は、アマチュア野球界では毎年のようにルール改定があって、今年は捕手が投手の球を受けた際、ミットを微妙に操作してボール球をストライクに見せる仕草は禁止になった。結果を欺くとか相手を騙す行為はやめましょうということだそうだ。今回の甲子園では投球に足を出してデッドボールを狙った行為があったが、審判は即座に両手を挙げてこの行為を中止し、この一球をボールと宣告した。これは素晴らしい主審の判断だった。隠し玉でアウトを狙うのもアスリート根性として褒められることではない。
アマチュアのアマチュアたる所以は、とくに学生スポーツに共通することとして観衆に見せるべきは、持てる能力を思う存分発揮したプレーパフォーマンスそのものでありガッツパフォーマンスではない。つまり、史上初の逆転満塁サヨナラホームランであったり、2ランスクイズサヨナラゲームであったり、観客を沸かせる150㌔投球であったり、外野からの素晴らしい返球とランナーのクロスプレーであったりと観衆がため息をつく要素はふんだんにある。野球に限らずスポーツはいくらでも魅せて魅せられるものはある。私は少々頭が固すぎるのかもしれないが、木更津総合と金足農業の勝利後の校歌斉唱で後ろ反りするのも?なのだ。直立不動で歌う姿が尊く感じられるということと、あれが今後出る高校すべてが模倣する可能性があるとしたらいかがなものかと思うからなのだ。逆に高校生らしいのかもしれないという思いもあるから複雑なのだが、あれが当たり前の姿になってほしくはない。この2校が甲子園で勝利した時に見せてくれる喜びの行為であるなら、甲子園名物として理解もし、見たいとも思うが、どこもかしこもとなると・・・あくまでも好き嫌いの範疇かもしれないのだが。
さて、第一回大会が開催されたのが101年前。そこで準優勝に輝いた秋田県(秋田高校)が100回目の記念大会で初優勝の栄冠を勝ち得るかどうか。大阪桐蔭が勝2度目の春夏連覇で、これも史上初。ガッツポーズは必要最小限の熱気こもった決勝ドラマに感動をもらいたいと熱くなっている。
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No.3022 ガッツポーズとパフォーマンス
2018.08.21